キッチン
いわずと知れた吉本ばななさんの名作。
LAにいるときに読んだ。
随分前に一度読んでいたのだが、また泣いてしまった。
このひとの小説は、なんだか訳もなく涙が流れることが多い…
どこか琴線に触れる言葉の使い方なのか、だって別に似たような経験をしたわけでもないのに。
個人的には、恋人が亡くなるほうの話が好きだった。幸いなことに、わたしはまだあまり身近なひとの死を経験していない。と、言っても、両方の祖父が亡くなっている。
遠くに住んでいることもあり、わたしは心から泣けなかったのだ。未だに、実感がさほどないともいえる。
小説や映画ですぐ泣くくせに、ともおもったが。そうして泣くときも、いつもこの場面が感動した、とか、自分に重なった、とかで泣くわけではない。
気がついたら涙が流れていることが多い。感情がひとより薄っぺらなのかと悩むこともしばしばだ。
言霊は、自らも気がつかない心のどこかをそっと撫でる。きっと日常の中で、その瞬間はたくさん訪れている。無意識下で我々はそれを堰き止めている。日常を滞りなく送るために。
それは毎日毎日、積もり積もって、ダムのようになっている。それをほどける言葉が現れたとき、溢れる。この溢れる原因は必ずしも感情の動きではないのだとおもう。限界がくるきっかけがありさえすれば溢れる。
このときの涙は、特別な意味なんて持たないし、持たなくたっていいのだ。その方がずっと、人間らしい。